肉食系御曹司の餌食になりました
「すみません、支社長が……」と、スマホを花村さんに渡したら、彼の声はもう私の耳に届かない。
「えっ!? あらまあ、うふふ」と楽しそうな反応を見せる花村さんに、なんの相談なのかと首を傾げた。
二分ほどして通話を切った彼女にスマホを返される。
気になって「支社長はなにを言ったんですか?」と尋ねたが、なぜか教えてくれず、「直接お聞きになって下さい」と笑顔を返された。
企画を共に進める上で情報共有は必須なのに、なぜ……?
花村さんは既婚者で十五ほど年上の女性だけど、私の恋人と内緒話をされた気分で少しだけ嫉妬してしまう。
そんな私の心を知らない花村さんは、「あちらでお茶を飲んでいって下さい。美味しいお菓子もあるんですよ」と親しげに話しかけてきて、さらには「そう言えば、うちの姉妹店でドレスをお作りになったんですよね? 細かな採寸記録は残ってますよね」と、仕事と無関係な話題にすり替えられてしまった。