肉食系御曹司の餌食になりました
今の気温はマイナス一、二度といったところだろう。
チラチラと降る雪はパウダーのようにキメが細かく、足元には十五センチほどの雪で覆われている。
そんな冬本番の札幌だけど、雪とガラスと光の幻想的に美しいこの光景を、大勢の人が楽しんでくれていた。
ステージ横で全体を見渡し、半年の努力の成果に満足しつつ、ショルダーバッグからスマホを取り出して支社長からのメールが来ていないかと気にする私。
音響設備も整った。ステージ前には教会にあるような長椅子も並べたし、もう少ししたらバージンロード用の赤絨毯を敷こうかというところ。
指示を仰ぐ必要はないので、こちらから連絡する理由もないけれど、今どこでなにをしているのか……。
鳴らないスマホをバッグに戻したら、白い息を吐きながら智恵が駆け寄ってきた。
「亜弓、そろそろ赤絨毯、敷いてもいい?」
「もう少し待って。十六時半頃でいいよ。あまり早く敷くと踏みつけられて汚れちゃう。
それより、車で牧師さんを迎えにーー」
そう言いかけたとき、後ろから肩にポンと手が乗った。
振り向くと支社長で、私の帽子に積もった雪を払いながら、笑顔で「さあ、行きましょう」と言った。
「どこにですか?」
牧師の迎えは他の社員の役目で、私達ではない。
社に戻っても用はなく、ここで指揮を取るのが仕事のはずなのに。