肉食系御曹司の餌食になりました
なぜか質問に答えてくれない支社長は、手袋をはめた私の手を繋いで、人並みを縫うように歩き出した。
公園を出て歩道を少し進むと、ハザードランプを点灯させて停車しているワゴン車があり、その前で立ち止まると、支社長は後部席のドアを開けた。
よく分からないが、促されるままに乗り込んで、続いて彼も隣のシートに座る。
ドアを閉めたら、運転席からは「出しますよ」と聞いたことのある声がした。
「総務の藤田さん?」
藤田さんは三十代の男性社員で、勤怠管理や福利厚生関係の仕事の他に、秘書をつけない支社長のスケジュール管理もしている。
今まではさほど接点のない人だったが、この企画がスタートしてからは、時々仕事の話をするようになった。
「平良さん、お疲れ様です。ステージ準備は順調ですか?」
「はい、予定通りです。あの、それで私達はどこへ行くんですか?」
さっき支社長にスルーされた質問を藤田さんに投げかけると、ちゃんと教えてくれた。
「円山のブライダルハウスですけど」
指揮役の私がなんで知らないのかと言いたげな口調で答えてくれて、それを聞いた私は目を瞬かせる。
代役のカップルに会いに行くということだろうか?
無理なお願いを急遽引き受けてくれたありがたいふたりに、私も挨拶しなければと思っていたけれど、支社長が『全て任せて下さい』の一点張りで、関わらせてくれなかった。
そして今日は、ロマンジュで支度を整えた代役のふたりを、開始時間に合わせて事業部の男性社員に迎えに行かせるという予定を聞いている。