肉食系御曹司の餌食になりました

え、ウェディングドレスを私のサイズに合わせたって……新婦の代役は私なの!?

ということは、新郎の代役は、まさか支社長が?


いつも穏やかな雰囲気の花村さんなのに、ぐいぐいと強引に私の腕を引っ張り、奥の扉へ連れて行こうとする。

引っ張られて歩きながら振り返ると、支社長と目が合いニヤリと笑われた。

私だけに見せる意地悪な顔をしたのはほんの一瞬だけで、すぐに紳士的な顔つきに戻る彼。

別の女性店員が「ご新郎様はあちらでお支度を」と声をかけると、澄ました顔して別の扉へ消えて行った。


驚いた後には、ヤラレタという敗北感が湧いてくる。

騙したりしないで初めから言ってよ……と文句を言いたい気分でもある。

若いカップルに結婚をやめられ、ピンチだったんだから、代役は私達しかいないと言われたら断らないのに……そこまで考えてハッとした。

二日前、若いカップルにドタキャンされて青ざめた私は、縋る思いで支社長に電話をかけた。

そのとき彼は、代役についてこんなことを言っていたような……。


『いずれは結婚の運びとなるふたりではありますが、さすがに本当の挙式とするには、色々と面倒な問題が生じますので』


それって、私との結婚を考えているということで……いや、ちょっと待って。プロポーズされたわけじゃないのに、期待したら駄目だ。

あの発言のときには別のカップルを代役にと考えていて、断られたから自分達がやるかという展開になったのかもしれないし、期待すれば別れの日の辛さが増してしまう。

< 220 / 256 >

この作品をシェア

pagetop