肉食系御曹司の餌食になりました
彼はアサミヤ硝子ホールディングスの社長の息子。彼自身もいずれは社長になるつもりでいる。
札幌支社で過ごせる期間は聞かされていないけれど、数年後に東京本社に戻るときが恐らく別れのとき。
幸せな時間をありがとうという気持ちで、笑顔で見送ろうと覚悟を決めている。
泣いて縋るような格好悪い女になりたくないし、彼を困らせたくもないから。
結婚なんて有り得ないという結論に帰着して、動揺を抑え込む。
愚かな期待をするより、今は準備をしないと。
これは仕事で、企画の成功のためだけに、私は花嫁姿になるんだ。
メガネを外してショルダーバッグに常備している使い捨てコンタクトレンズを装着し、ふたりががりでヘアメイクを施された。
その後はウェディングドレスに袖を通す。
ボディラインがはっきりと分かるようなタイトなドレスで、膝から下はスカートが豊かに広がっている。
光沢のある上質な生地は刺繍やレースで飾られて、エレガントでゴージャスな雰囲気のドレスだった。
「やっぱりマーメイドラインにして正解でした。平良さんは大人っぽい雰囲気をお持ちなので、とてもよくお似合いですよ」と、花村さんが褒めてくれた。
ドレス選びは私に似合いそうなものをと、支社長に任されたらしい。
新しく作る時間はもちろんないので、この店のレンタル用のドレスを、私のサイズに合わせて縫い直してくれたそうだ。