肉食系御曹司の餌食になりました
花村さんはきっと、この二日間かなり忙しかったことだろう。
椅子に座って頭にベールを被せて貰っている私。
もうひとりの女性店員は私の爪を美しく飾ってくれていた。
花村さんの顔は見えないけれど、「振り回した形になって申し訳ありませんでした」と謝ったら、後ろにフフッと柔らかく笑う声がした。
「そんなことありませんよ。直前にバタバタしたことは私にも責任がありますし、こちらこそよいお客様をご紹介できずにごめんなさい。
それに私、嬉しいんです」
「え?」
「平良さんと麻宮さんに初めてお会いしたとき、とってもお似合いだったから、お付き合いしないのかな?と、密かに思っていたんです。
あのときの予想が当たった気分で、今ふたりのお支度をできるのがとても楽しいです」
お似合いって……。
花村さんの前での私は、いつも冴えない地味スタイルで、どうしてそう思ったのかが理解できない。
私に申し訳なさを感じさせないための彼女の優しさだとしたら、『ありがとうございます』と返すだけでいいのに、つい反論してしまった。
「うちの社員は、私達の交際を信じないですよ? こんな私ですから」
すると「できました」と言って花村さんは私を立ち上がらせ、大きな姿見の前に誘導する。
「ほら、お綺麗でしょう? 麻宮さんは言うまでもなく素敵な男性ですけど、平良さんも美人さんですよ。もっと自信を持って下さい」