肉食系御曹司の餌食になりました

大通公園西八丁目に戻ってくると、時刻は十六時五十五分、ギリギリ開始時間に間に合った感じだ。

支社長は人波を縫うようにして先にステージの方へ走って行き、間もなく公開ウェディングを始めるというアナウンスが辺りに響いた。


私はなにも知らない事業部の男性社員に「えっ平良さん!? 本当に平良さんなの?」と驚かれたり、女子社員には「代役なら私が支社長の花嫁やりたかった!」と羨ましがられたりと、ひとしきり騒がれた後に、赤絨毯の手前のパーテーションの陰に待機。

隣には礼服を着た事業部の部長がいて、なぜ?と思ったら、父親役を支社長に頼まれたという話を、今さっき聞かされた。


張り切った顔をした部長が、私の隣にいることに違和感を感じる。

部長のお気に入りの女子社員は、私でなく智恵。

娘のような気持ちで智恵を可愛がっている部長が、「俺はな、息子しかいないからな、平良さんみたいな娘が欲しかったよ」と父親のような感情を今は私に向けてくる。


そんなことを言われても、「はぁ、そうですか」としか言葉を返せないし、いつもとの違いに調子が狂うばかり。

ちやほやされたい願望のない私には、やっぱり周囲に構われない地味なスタイルの方が居心地がいいみたい。

でもウェディングドレス姿で彼の隣に立てるのなら……この仕事を他の女子社員には絶対に譲りたくないという思いでいた。

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