肉食系御曹司の餌食になりました
近くの教会から来てもらった牧師が、マイクに向けて開式の言葉を告げる。
すると、ステージの横から新郎役の支社長が登場し、聖壇の前で足を止めた。
ステージ前の四十席ほどの長椅子に座るのは、前から二列目までがうちの社員で、他はみんな観光客や集まって来た市民達。
座り切れない見物人はその周囲に幾重にも層をなし、委託の警備員が忙しそうに人々の整理を行っていた。
これは仕事だと繰り返し言い聞かせても、挙式が始まると心が震えだす。
目の前の赤絨毯を歩いて彼の元へ行けると思うと、つい喜びたくなってしまうのだ。
厳かなウェディングソングが流れる中、今度は牧師に私が呼ばれた。
パーテーションの陰から出て、部長の腕に掴まり、一歩一歩バージンロードを進むと、観光客からフラッシュがたかれ、「綺麗だね〜」という花嫁役としてはありがたい言葉や溜息も、あちこちから聞こえて来た。
ステージに上がり、聖壇前で待っている彼の元へ。
部長の腕にかけていた手を外し、差し伸べる彼の手に掴まり、ふたりで牧師の前に並んで立つ。
賛美歌斉唱は見物人も歌ってくれて、大勢の歌声が冬の夜空に吸い込まれていた。
空にはぼんやりとした黄色の月。
チラチラと舞い降りる粉雪が、聖なる夜を白く染めている。
ガラスと光と雪が作り出すウェディングは清らかに美しく幻想的で、隣に愛する人がいるから、氷点下の外気の中でも心は暖かい。