肉食系御曹司の餌食になりました

支社長は指輪を摘むと、私の左手の薬指に通してくれる。

その後に私も彼の薬指に指輪をはめながら、ふと思ったことを小声で聞いてみた。


「もしかして、支社長が作ったんですか?」

「そうですよ。昨日、園辺さんの工房をお借りして作りました」


それも知らなかった。ただのデモンストレーションなのに、多忙の中でわざわざ手作りしてくれたなんて、嬉しくて目が潤む。

仕事という言葉で何度押し込めても勝手に湧いてくる喜びに、心が揺さぶられて大変だ。

この指輪は一生大切にしよう。

彼が東京に戻り、会えなくなってもずっと……。


嬉しさと切なさを同時に味わっていたら、彼の手が私のベールを持ち上げ、後ろへ流された。

まさか、誓いのキスまでやるというの!?

潤んだ瞳の涙は早くも引っ込み驚く私に、彼はクスリと余裕の笑みを向けてくる。


「なにを驚いているのですか?」

「いえ、別に……」


気にしたのは周囲の目。

しかし、こんなに大勢の目があるからこそ大丈夫だろうという安心感も戻ってきた。

きっと頬に触れるか触れないかのキスをするだけだ。

支社長とはもう数え切れないほどに唇を重ねているけれど、デモンストレーションの挙式で、まさか唇にキスするはずは……。


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