肉食系御曹司の餌食になりました
この人はアサミヤ硝子ホールディングスの御曹司。確かにコンビニでの一回分の昼食代なんてどうでもいいのだろう。
それを理解していて、奢ってもらえるのがありがたくもあるけれど、なにか裏がありそうな気がして素直に喜べない。
会社のあるビルまで戻ってきて、エレベーターに乗る。
下りのエレベーターは混雑していても、上りの利用者は私達の他にいなかった。
彼は支社長室のある四階を押して、私は事業部のある五階を押す。
でも降りたのは支社長と同じ四階で、なぜなら私の分の昼食をまだ渡されていないから。
エレベーター前で「ありがとうございます」と一応お礼を述べて、私の分をくださいという意味の手を出す。
しかし、その手はなぜか無視され、彼はガラス扉の横にあるICリーダーに社員証をかざして解錠すると、中に足を踏み出した。
「支社長!」と声を上げたら、「黙って付いて来て下さい」と言われてしまう。
なんなのよ……。
理解できない行動を繰り返す彼の背中をひと睨みしてから、諦めて付いていく。
ガラス扉のすぐ先に来客用の受付カウンターがあり、受付嬢が微笑みながら支社長に会釈して、その後ろに私を見つけると首を傾げていた。
このフロアに私が来ることは滅多になく、支社長の連れのように真後ろを歩くこともまずないので、疑問に思われたのだろう。