肉食系御曹司の餌食になりました
それは冗談でも、急に思いついた言葉でもないようだ。
牧師はあらかじめ聞かされていたかのように、スタスタとステージから去り、総務の藤田さんがステージ上にスタンドマイクとアコースティックギターを運んできた。
ギターが支社長の手に渡ったということは……?
「弾けるんですか?」と聞いたら、にっこりと笑顔だけを返される。
そして支社長のギターだけではなく、突然ステージ上に大荷物を抱えた男性達が現れて……。
ドラムセットと電子ピアノとコントラバスが速やかにセッティングされ、それぞれの楽器に向かうのは見慣れた顔。
アルフォルトのジャズメンバー、シゲさん、コウジさん、ジョーさんだ。
なんでみんなが!?
目を丸くして驚いていると、長椅子の後ろの席でひとりの男性が立ち上がり、目深に被っていた帽子をパッと取ると、大声で叫んだ。
「雪とガラスのクリスマス・ジャズナイトの始まりだ〜!」
マスターまで!?
なんでいるのかと聞くまでもなく、全ては企むのが好きな支社長の仕業だろう。
私だけではなく事業部のみんなも驚きを隠せない顔をして、観光客たちは「ジャズだって」「へぇ、聴いて行くか。寒いけど」という会話を交わしていた。