肉食系御曹司の餌食になりました


夢のような時間は終わり、時刻は二十三時半。

ドレスを脱いで、魔法が解けたように地味な姿に戻った私は、ステージ横で支社長と並んで立っていた。

ステージは音響設備やスポットライトなどの照明が外されて、ステンドグラスと十字架、淡い光を放つ板ガラスのみの教会セットに戻されている。

数時間前は盛大に盛り上がり、アンコールまでもらって十曲も熱唱した私。

事業部のみんなをさらに驚かせてしまったけれど、楽しかったな……ジャズライブも挙式のデモンストレーションも。

終わってしまえばなんだか寂しい。

ガラスの小路もステージも、一月上旬まで展示して、その後は札幌雪まつりの準備が始まるから完全撤去となる。

そうなればもっと寂しく思うのかもしれない。


夜もふけると、ガラスの小路を歩く人も疎らになる。

数時間前の賑わいがまだ耳に残るせいか、今は随分と静かに感じる。

ガラス板が発する六色の光が真っ白な雪を照らし、このエリア全体がぼんやりと光に包まれているようで、この景観は美しくて……寂しげだ。


支社長の腕が腰に回され、引き寄せられて抱きしめられた。

寒そうに見えたのかもしれないが、そうではなく寂しいと感じていただけなのに。

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