肉食系御曹司の餌食になりました
頼もしく優しい腕に包まれて、いつまでこうしていられるのだろう?と、聞けない疑問が心に浮かぶ。
私も彼の黒いコートの背中に腕を回して抱きしめながら、このまま時が止まってくれないかと思っていたら、彼の腕の力が急に緩んだ。
顔を上げると、いつになく硬い顔をした彼が、いつもより低い声で話し出す。
「申し上げ難いのですが……再来年、私は東京本社に戻ることになりました」
再来年ということは……。
今年はもうすぐ終わるから、後一年と三ヶ月ということか。
夢の時間は期待するほど長くないみたい。
寂しい、行かないでという心の叫びを意志の力で無理やり押し込めて、作り笑顔を向けた。
「分かりました。再来年以降のご活躍は、ここから応援しています。心配しないで下さいね。引き止めることも、後を追うこともしませんので」
東京に戻ってからの彼の人生に、私は不必要。
もし御曹司のレールを外れてガラス職人になってくれたならと、愚かにも夢見てしまったときもあったけれど、彼は社長になるつもりでいる。
だから私達の未来は重なることがないのだと、恋の終わりを覚悟して諦めていた。
切なさも悲しみも閉じ込めて、精一杯の強がりを口にした私。
覚悟はあるから安心してという気持ちで言ったのに、「なに言ってるんですか?」と眉をひそめられた。