肉食系御曹司の餌食になりました

「もしや、東京本社に戻る日に、私があなたとの関係を清算するつもりだと考えているんですか?」

「は、はい……」

「そんなもったいないことはしませんよ。ようやく手に入れた愛しい人を、手放すわけないでしょう。亜弓さんも一緒に東京に行くんです。私の妻として」


思いもしない未来図を示されて、数秒の思考停止が起こる。

目を瞬かせてなにも答えられない私をクスリと笑い、メガネを取られて、彼のポケットにしまわれた。

その後は顔が近づいて、額がコツンとぶつかる。


「大丈夫。向こうにもジャズシンガーとして活躍できる場を用意します。そうだ、マスターに掛け合って、アルフォルト二号店を出すのもいいですね。百パーセント出資すると言ったら、マスターは乗ってくれるでしょうか?」

「ま、待って下さい! 歌える場所よりも、私と本当に結婚する気なんですか!?
私はこんな女ですし、社長夫人ってキャラじゃないんですけど!」


この札幌支社にいる間だけの相手なら、なんとか務められる気持ちでいたが、アサミヤ硝子ホールディングスの社長夫人などという注目を浴びそうなポジションには不適格な人間の気がして喜べない。

そういうのは取引先のご令嬢か、はたまた有名大学出身の知的美人な秘書とかが相応しいのでは?

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