肉食系御曹司の餌食になりました
午後のひとときは、昨日の会社帰りにレンタルした古い洋画を一緒に観て、その後はクラシックジャズのレコードを掛けながら、お互いに好きな本を開く。
麻宮のマンションは高層階の1LDK。
たった三年しか住まない予定の賃貸のため、壁やフローリングは弄ることができないが、家具は好みのものを揃えている。
中でも気に入っているのが、二人がけの皮張りソファーで、色はアンティークな風合いのダークブラウン。
座面は広く、固すぎず柔らかすぎず、背もたれはちょうど首を支えてくれる高さで、座り心地が抜群だった。
ソファー前のテーブルもダイニングテーブルも木目で、ビンテージのような傷があえて施されているデザイナーズ家具だ。
テレビ台とそれに繋がるサイドボードは、シンプルな木製の棚や板を組み合わせて、オリーブグリーンに麻宮自身が塗装した、半手作りの品。
部屋を照らす照明は真鍮の傘のついたランプふうで、ガラス部分だけは園辺ガラス工房で麻宮が手作りしていた。
その他にも棚の上には、色とりどりの彼のガラス細工が並べられている。
オールドアメリカンスタイルの家具とガラス細工が飾られたこの部屋に、ジャズはよく似合う。
地味好きな亜弓にでさえ、初めてこの部屋を訪れたときに『素敵!私の部屋もこんなふうにしたいです』と言わせた部屋だった。
ソファーに体を触れ合わせて並んで座り、ジャズと読書と、時々の他愛ない会話を楽しむふたり。
そんな穏やかな時間は、壁掛け振り子時計の十七時を知らせる音で終わりを迎えた。