肉食系御曹司の餌食になりました
本を閉じた亜弓が「そろそろ支度しないと」と立ち上がる。
そのほっそりとした手首を反射的に捕まえた麻宮に彼女は振り返り、「聖志さん?」と小首を傾げた。
今日は亜弓の所属部署、事業部で新入社員歓迎会があるのだと、麻宮は前もって聞かされていた。
出掛けてしまうのは仕方のないことだと分かっていても、側にいて欲しい気持ちでいた。
歓迎会がなければ、夕食と風呂を一緒に楽しみ、ベッドの上で美しい彼女の裸を堪能できることだろう。
その幸せが今夜は叶わないことが恨めしい。
しかし、仕事上とも言える飲み会に行くなとは言えず、麻宮は手を離した。
「楽しんできて。帰りは何時頃の予定?」
「三次会のカラオケまで付き合わされると思うので、きっと日付が変わります。今日は自分のアパートに帰りますよ。聖志さんは気にせず寝て下さい」
それは聞いていないと、麻宮は眉をひそめた。
いつもは金曜の夜から月曜の朝まで彼女はこの家で過ごしてくれるのに、今夜は帰りを待つこともさせてくれないというのか。
「二次会までで切り上げて、ここに帰って来て。あまり遅くなると心配だ」
亜弓がどうしても三次会まで参加したいというのなら致し方ないが、彼女の言い方からするとどうやら億劫に思っているようだ。
それならばと言った麻宮の言葉に、亜弓は溜息をついてから口を尖らせた。
「聖志さんのせいですよ。ジャズシンガーだとバレたせいで、カラオケは絶対参加だと言われたんです。企画に不参加だった人達に、今度歌を聴かせろって、しつこく言われて……困ってるんですよ、私は」