肉食系御曹司の餌食になりました

亜弓は"地味"と自分を評価するので、その言葉を借りるなら、地味なパンツスタイルから地味なスカートスタイルへ着替えたといった格好だ。

メイクも色味が薄く、眼鏡もそのまま。
肩下までの黒髪はひとつに束ねただけ。

『こんな地味な女を欲しがるのは、支社長だけですよ』と、かつて亜弓は言ったが、麻宮の目に映る彼女は、なにを着ても美しく輝いているので彼は心配している。


テキパキと出かける支度を整えていく彼女を視界の端で追い続け、手元の本に集中できずにいる彼。

そうしていたら「聖志さん」と亜弓に呼び掛けられた。


「なに?」

「これ、付けてもらえますか?
上手くいかなくて……」


リビングの壁には、ジャズ界の大御所の写真をモノクロでプリントしたアートな鏡が飾られている。

その見づらい鏡に自分を映し、彼女はネックレスの留め具と格闘していた。

それはホワイトデーに麻宮が贈ったもので、ステージ用ではなく普段使いできるようなシンプルなもの。

とはいえ、シルバーチェーンにぶら下がるダイヤは本物で、二十万円の価値があるのだが。


自分が贈ったアクセサリーを身につけてくれるのは嬉しいものだ。

麻宮は幾らか気持ちを上向きに修正して、亜弓の元へ行く。


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