肉食系御曹司の餌食になりました
後ろに立ち、彼女の代わりにネックレスの留め具を嵌めてあげる彼。
その視線はうなじに注がれていた。
白いうなじが艶かしい。
彼女の肌はいつも滑らかで、スベスベとした感触だ。
柔らかな胸や尻や太ももは言うまでもないが、首や背中の筋肉の弾力を楽しみながら撫でるのも、また堪らない。
ネックレスを付け終えてから、つい腕を回して抱き寄せ、うなじに唇を当てた麻宮に、亜弓は「もう……」と恥じらうように文句を言った。
その表情は見えずとも、彼女が喜んでいることは麻宮に伝わっていた。
彼の愛を感じるたびに、亜弓は頬を染めて少女のようにはにかむ。
しかし、可愛らしい仕草をすぐに消そうとするのは、彼女の言葉を借りて言うなら『キャラじゃない』という理由らしい。
時刻は十七時二十分になり、亜弓は「行ってきます」と玄関で靴を履いていた。
見送る麻宮がキスを求めると、彼女は軽く唇を重ねてから、手を振り出て行った。
パタンとドアが閉まったら、急に静けさが増す。
無音ではなく、変わらずレコード盤が回転し、古き良き時代のジャズが流されている。
彼女がいた時間も決して騒がしくはないけれど、麻宮の心にはことさらに静けさが誇張されて感じられた。
それと同時に、今夜の彼女はここに帰らないのだと寂しくもなる。
「仕方ない……」と独り言を呟いて、レコードのボリュームをふたつ上げる彼だった。