肉食系御曹司の餌食になりました
時刻は二十三時半になる。
ダイニングテーブルにノートパソコンを置いて、麻宮は仕事をしていた。
この週末にやらねばならないものではないのだが、忙しくしていないと、時計の針ばかり気にして落ちつかないと思ったためだ。
しかし、その仕事もやり終えてしまう。
データを保存しファイルを閉じた後、彼の視線はまた時計に移っていた。
今、三次会のカラオケの真っ最中だろうか?と彼は考え、同僚のリクエストに応えて歌う亜弓の姿を想像していた。
あの企画に参加していない事業部の社員も数人いたから、彼らは彼女の歌声にさぞかし驚くことだろう。
そして見る目が変わり、彼女に魅了される男がまたひとり、増えるのかもしれない……。
麻宮は亜弓を信じている。
彼女はしっかりとした大人の女性で、酒の勢いを借りた男達がたとえしつこくアプローチしてきたとしても、それを拒むことのできる人だ。
そう思う一方で、彼は反証についても考える。
そうは言っても……彼女は女性だ。力で男には敵わない。
それにまだ交際に至らぬ頃、自分が強引にキスを迫ったら、彼女は避けなかった。
その理由は自分が相手だからと思いたいが、キスくらいならという意識だったとしたら……。