肉食系御曹司の餌食になりました

信じる気持ちと、なにかが起きるかもしれないと危ぶむ気持ちが拮抗する中で、麻宮はスマホを手に取り、亜弓に宛ててメールを打つ。


【自宅に着いたらメールして。無事に着いたのかが知りたい】


束縛と取られないよう、言葉を選んだつもりでいた。

麻宮の心に独占欲が渦巻いていても、それをぶつけられずにいるのは、彼女に逃げられることを恐れているからだ。


メールを送信した後に彼は、冷蔵庫を開けて缶ビールに手を伸ばす。

しかし、思い直してなにも取らずに戸を閉めた。

もしかすると、車で迎えに来てほしいと、彼にとって嬉しい返事がくるかもしれない。

亜弓の性格や、出かける前の『自宅アパートに帰りますので気にせず寝て下さい』という台詞からは、その可能性は低いと分かっていても、期待する気持ちを彼は消せずにいた。


ビールをやめた麻宮は、珈琲を淹れることにする。

高性能の珈琲メーカーは使わず、手回しミルで豆を挽き、ケトルの湯を回し入れてドリップするという手間のかかる方法で。

キッチンに立つ彼の手元で、珈琲豆がゴリゴリと砕かれていく音がする。

途中で彼はスマホを気にしたが、亜弓からの返信はまだ来ない。

メールに気づいていないのか?
だとしたら、まだ賑やかなカラオケ店を出ていないのかもしれないな……。

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