肉食系御曹司の餌食になりました
途端に鼓動が二割り増しで速度を上げ、嫌な緊張を感じてしまう。
ガラスのローテーブルに買ってきた品を並べられ、「お座り下さい」と言われてはここで昼食を取るしかないが、探りを入れられる前に逃げ出したい気持ちでいた。
早く食べてさっさと出て行こうと決意して、勧められたふたりがけソファに腰を下ろす。
支社長はひとりがけソファに座り、お互いに自分で選んだものを食べ始めた。
咀嚼に手間取るサラダを選んだことを後悔しながら、箸と口を動かす私。
その向かいでは支社長が牛カルビ弁当を食べている。
彼の箸の持ち方はお手本のように美しく、口に運ぶ仕草も咀嚼する口元も上品で、コンビニ弁当ではなく高級老舗料亭の懐石弁当でも食べているような錯覚に陥る。
警戒心はそのままに、食事の様子に関してはつい見とれてしまう。
すると私の視線に気づいた彼が、瞬きの後に口の端をニヤリと吊り上げ、「食べますか?」と聞いてきた。
「私が箸を付けたものでよろしければ、喜んで差し上げますよ」