肉食系御曹司の餌食になりました
以前、元彼のカイトという男の飲み方を、アルフォルトの店内で注意していた亜弓を、麻宮は思い出していた。
亜弓はドライな性格の一方で、面倒見がいいところもあるからな……。
『捨てて行きますよ?』と口では言っても、井上を自宅まで送り届けるつもりでいるのだろう。
それにしても井上は、亜弓の友人の杉森智恵の方に気があるように見えていたのだが、狙いを変えたのか?
だとしたら、手を出さぬよう、ここで釘を刺さねばならないな……。
彼が酔っていることを差し引いても、亜弓の肩に腕を掛けていることや、ラブホテルに誘ったことは、許せるものではなかった。
麻宮が真後ろから「亜弓」と呼びかけると、彼女は足を止めて顔だけ振り向き、目を丸くした。
「聖志さん、どうしてここに!?」
「連絡がつかないから、心配で探してたんだ。
重そうだね、代わるよ」
亜弓の肩から井上の腕を引き剥がし、酔っ払いのふらつく体を支える麻宮。
井上がヘラヘラ笑っていられるのは、まだ上司である麻宮を認識していないせいだ。
「サトシ? そんな名前の奴、事業部にいませんよ〜。ちみは誰? 俺は亜弓たんの方がいいーー」
自分を支える麻宮の顔に振り向いて、井上は「うわぁっ!!」と叫んだ。
飛び退くように後ずさり、その顔には強い焦りが表れている。