肉食系御曹司の餌食になりました
亜弓に非がないことは、麻宮にも分かっている。
悪いところがあったとしたなら、それは麻宮からの連絡に気づかず、心配させたことだろう。
しかし、亜弓は自宅アパートに帰る予定でいて、彼を心配させているつもりは毛頭なく、それについても責めるべきではなかった。
眉がハの字に傾いた亜弓の顔を見て、麻宮は怒りを押さえ込む。
亜弓にそんな顔をさせたいわけではなく、後ろめたさも感じているからだ。
一瞬とは言え、『まさか』と彼女を疑った自分の方が悪いのだと、口には出さず反省していた。
麻宮は亜弓に向けて微笑んで見せてから、井上の腕を取って立ち上がらせ、彼を許した。
「もういいですよ。謝罪の気持ちは伝わりましたので」
「あ、ありがとうございます!」
ホッとした顔を見せる井上の、落とした鞄を亜弓は拾って渡している。
そして、ズボンに付いた汚れまで払ってあげて、「ひとりで帰れますか?」と心配していた。
それを見た麻宮は、一度許した彼をまた責めたい気持ちにさせられた。
「ひとりで帰れないのでしたら、私が井上さんのご自宅までお送りしましょう。車で来ておりますので、どうぞご遠慮なく」