肉食系御曹司の餌食になりました
麻宮の中に亜弓へと怒りは少しもない。
むしろ今回のことは、勝手に心配した挙句、僅かにでも彼女を疑った自分が悪いと思っている。
それでも気まずい雰囲気を作る理由は、これは利用できると企んでいるせいだった。
無言のまま十分弱が経過して、車はマンションの地下駐車場に戻って来た。
エンジンを切ったところで、亜弓がやっと口を開く。
「心配かけて、ごめんなさい……」
麻宮は小さな溜息を彼女に聞かせてから、静かに話し出した。
「謝らないで。勝手に心配して探したのは俺だから亜弓は悪くない。
君は気を遣って自宅に帰ると言ってくれたんだろうけど……余計に心配になってさ……」
麻宮が自嘲気味に笑って見せると、亜弓は真顔のままじっと彼を見つめ、なにかを考え始めた。
『遅くなっても、こっちに帰ってくる約束をした方が、心配させずに済んだのだろうか?』
彼女は今、こう思っていることだろう。
亜弓の考えを先読みして会話の流れを作ることは麻宮の得意分野で、今も彼は自分の望む方向へと会話を操ろうとしていた。
「離れていると、隣にいるときより亜弓のことを考えてしまう。平日もそうだよ。夕食後に君は、うちに泊まらず帰るだろう? もう寝ただろうか? それともテレビを観ているのだろうか?と考えると、ベッドに入っても眠りは中々訪れない。
それでも、全ては俺の心の問題で、今回のことも含めて亜弓に落ち度はないから、気にしないで」