肉食系御曹司の餌食になりました

しかし私が警戒する方に話は流れず、彼は質問に答えることなく立ち上がると、部屋の隅にある珈琲メーカーの前に移動する。

すぐにふたり分の珈琲を淹れて戻ってきて、私の前に「どうぞ」と白いカップを置いた。


「ありがとうございます」

湯気立つ珈琲はいい香りがして美味しそうだけど、すぐに飲めそうにないほど熱そうだ。

一応歌手なので、口や喉の火傷は気にする。

困ったな、早く出て行きたいのに……。

抹茶プリンは事業部に持ち帰って食べることにして、お握りとサラダを食べ終えても、まだ戻れそうになかった。


支社長は牛カルビ弁当と唐揚げを食べ終えていて、今は珈琲を飲みながらカツサンドを口にしている。

やはり、その所作も洗練されていて美しい。

息を吹きかけ冷ましながらカップの珈琲と格闘していたら、全てを食べ終えた支社長が「亜弓さん」とまた話しかけてきた。


いちいち警戒する私に、「この前、札幌駅構内の花屋でーー」と、なぜか急に花屋の話を始める彼。

店先の真っ赤なバラに目を奪われ、乗るべき電車を一本遅らせてしまったというエピソードを聞かされた。


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