肉食系御曹司の餌食になりました
これについては私もコスパが悪いと危ぶんでいたので、やはりそうかという気持ちでいる。
ただ、発案者である同期の杉森智恵(すぎもりちえ)は、ショックを受けるだろうな……。
チラリと智恵の席を見ると、不在。
トイレだろうか?
できれば私じゃなく、彼女に直接渡してほしかった。
いや、支社長自ら出向かなくても電話で担当者を呼び付ければいいのに、この人はこうやって事業部によく姿を見せるのだ。
「それでは亜弓さん、またね。
今度、食事をご一緒しましょう」
そんな言葉と紳士的な笑みをくれてから、彼は優雅な足取りで事業部を出て行った。
スーツの背中を見送って椅子に座り直し、私は「食事ね……」と呟いた。
それは去り際の彼のお決まりの台詞で、全ての女性社員に言っているのだろう。
もし本気にする女性がいたら、どうするつもりなのか。
まぁ、私には関係ないことか。
パソコン作業に戻ったが、すぐに眼鏡を外して目頭を押さえた。
今日は朝からずっと画面の数値とにらめっこで、目がお疲れ気味だ。
こうやって目を押さえたり擦ることができるから、眼鏡はやめられない。
コンタクトレンズは"夜"しか使わない。
マスカラも付け睫毛も、夜だけ。
会社での私は地味で目立たず注目度は低い。
それが居心地よかった。