肉食系御曹司の餌食になりました

有名な曲なので、ジャズ好きのお客さんは私と一緒に英語の歌詞を口ずさんでいる人もいるし、カクテルグラスを傾けながら自身の思い出を重ねているような女性客もいた。


一番の歌詞が終わって間奏に入ると、主役はアルトサックスになる。

私の隣に出てきて、少々カッコつけつつ甘い音色を聴かせてくれるのは、カイト。

私よりひとつ年上の二十九歳で、一年前まで私の彼氏だった人。


今は友達とも呼べないただのジャズ仲間のカイトとは、この店の中だけの付き合いだ。

この歌詞のように私は失恋に嘆いてはいない。

関係を終わらせたのは私からだし、そもそも付き合ったことは間違いだったと思っている。

カイトが惚れたのは、私であって私じゃない、Anneだけだったから……。


およそ三十分のステージが終わり、拍手をもらって楽屋に引き上げると、カイトがアルトサックスをケースにしまいながら話しかけてくる。


「ジャスト・フレンズは、アンの声がはまるよな。おばさんボーカルのしゃがれ声より、若い声の方が合ってる」


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