肉食系御曹司の餌食になりました
鏡越しに視線をぶつける私達。なにを勘違いしたのか、カイトは近づいてきて真後ろに立つと、私の体に腕を回してきた。
「やめてよ」
「このくらい、いいじゃん。アン、俺さ、今フリーなんだよね。お前、彼氏いる? いないならもう一度ーー」
「無理」
ウィッグを横の棚に置き、私はカイトの腕を外して向かい合った。
「同じことを繰り返す気はないよ。
これから私はメイクを落として地味な服に着替え、素の私に戻る。そういう私をカイトは好きになれないんでしょ?」
「や、今度は大丈夫。それくらい我慢するし、文句も言わないようにするからさ」
カイトはバツの悪そうな顔で笑いながら、明るい茶色の前髪を掻き上げた。
その仕草が一年前は好きだったのに、今は冷たい視線を向けてしまう。
地味な私の姿でも、文句を言わずに我慢するって……バカ言わないで。
我慢して付き合う先に、一体なにがあるというのか。
カイトは地味な私にうんざりする心を隠すことに疲れ、私は彼好みの女になれないことを申し訳なく思わなくてはならない。
そんな苦痛だらけの付き合い方はしたくない。