肉食系御曹司の餌食になりました
カクテルを飲む私の様子を見ながら、支社長はブランデーのお代わりを受け取って氷を鳴らす。
「今日も素敵なステージでした。
最後の曲、ジャスト・フレンズは私の好きな曲で、ヘレン・メリルのCDでよく聴いています。レコードも持っていますよ」
「麻宮さんは、ジャズに詳しいんですか?」
「大学生の頃、数ヶ月だけジャズ研究会というサークルに入っていました。
その程度なので、詳しいのかと聞かれても頷けません。マスターに怒られそうですから」
カウンター内で、他の客用のお酒を作っているマスターは、完成品をアルバイトの男の子に渡してから、会話に参加する。
「いやいや、麻宮さんは結構詳しいよ。なにしろマニアックな俺と話が合うくらいだもの。
そうだ、さっき話してたゼムの限定版CD、貸してあげるよ」
その言葉に驚いて「え?」と呟いてしまう私。
マスターが秘蔵のCDコレクションを客に貸すなんて……。
カウンターから出たマスターは楽屋に入って行き、上機嫌に鼻歌を歌いながら戻ってきた。
「はい、これどうぞ。ジャケットも味があって素敵だろ? 次に店に来たときに返してくれればいいから」
「マスター、ありがとうございます。
帰って聴くのが楽しみです」