肉食系御曹司の餌食になりました
男性ふたりを見比べて、冷や汗が流れるような心持ちでいた。
どんな技を使ったら、こんなに短時間で相手の懐に入り込めるのか。
マスターと親しくなられると、色々と困り事が発生しそうで……。
嫌な予感に口の中が乾き、カクテルの半分を一気に喉に流し込む。
ドキドキと鼓動が速まるのはアルコールのせいか、それとも正体がバレないように緊張しているせいか。
いや、左隣の支社長が社内で見るよりも男の顔をして、色気のある視線をずっと私に止めているせいかもしれない。
そんなに見つめられるとポーカーフェイスを崩されそうで、内心焦っていた。
すると店での私をよく知っているマスターが、わずかな頬の赤みに気づいてからかってきた。
「アン、麻宮さんはいい男だろ? 近年稀に見る好青年。ジジィの俺でもドキッとするよ。
アンの虜になったって言ってたけど、どうだい? 彼女はいないってさ」
彼女候補に名を挙げろというのは、冗談だろうから聞き流すとして、彼女がいないという情報には驚かされた。
てっきり東京で帰りを待つ女性がいるものだと思っていたから。