肉食系御曹司の餌食になりました
眼鏡をかけ直したら、机四つ離れた席に、どこかから戻ってきた智恵が座るのが見えた。
支社長に渡された企画書を手に、彼女の元へ。
地味な私と違い、智恵はふんわりウェーブの肩までの髪型で、メイクも上手。
男性が好みそうな華やかな容姿だ。
私と智恵は見た目に大きなギャップがあるけれど、なぜかウマが合うというか、一緒にいて居心地のいい友人だった。
否決された企画書を智恵に手渡し「残念」と声をかけると、彼女は顔をしかめた。
「部長はいいと言ってくれたのに、支社長って厳しいなぁ。食事に誘われたって、釣られてあげないんだから」
「ああ、食事ね。
アレは口癖のようなもんでしょ」
「は? アレって?」
「いや、だから支社長の、今度食事をご一緒にっていう……」
なぜか不思議な顔で見返され、会話が成立しなくなる。
お互いに目を瞬かせて「え?」と同時に呟いた後、智恵は椅子を鳴らして立ち上がり、私の手首を掴んで廊下に連れ出した。