肉食系御曹司の餌食になりました
「今の彼はアルトサックスを吹いていた人ですよね。もしかして私のせいで、マズイところを見せてしまいましたか?」
「いえ、別に……。
カイトとは、とっくに終わっているので」
目を泳がせて動揺を隠せずにいるのは、カイトに誤解されたからではなく、手の甲へのキスと意味深な言葉のせいだ。
まだ心臓が忙しく働いて、隣に支社長がいる内はしばらく落ち着きそうにない。
昼間も思ったことだけど、支社長といると調子が狂う。
彼に主導権を握られて、ペースを乱され翻弄されてしまう。
こんなみっともない自分は嫌だから、残りのカクテルを飲み干して「からかわないで下さい」と席を立った。
バッグと紙袋を持ち、彼に背を向ける。
すると「アン、忘れ物です」と引き止められた。
忘れ物に心当たりがなく、疑問に思いながら振り向いたら、支社長の手にはコンビニのレジ袋が。
それを渡されて袋の中を覗き込み、私は目を見開いた。
これは、今日のお昼に支社長室に忘れた、抹茶プリン……。