肉食系御曹司の餌食になりました
危険なキスは極めて甘い
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六月に入ると札幌の街も緑が濃くなり、上着のいらない日が増えてきた。
今度の休みは夏物の地味なオフィススーツを買いに行こうかと考えながら、窓に視線を移す。
ビルの隙間に空の切れ端が見え、濃淡のグラデーションをつけた茜色に心を奪われそうになる。
しかし今は、ミーティング室で新企画についての話し合いをしているところ。
一度逸らした心と視線を手元の資料に戻し、ペンを握り直した。
楕円形の白いテーブルに向かうのは、私と智恵と、二年上の男性社員、井上さんの三人だけ。
この前、智恵の企画書が支社長によってボツにされたので『そのリベンジがしたいから手伝って』と言われて集まっていた。
テーブルの上には色々な資料が散らかっている。
札幌の中心を東西に延びる大通公園の見取り図や、その公園でのイベント表、十数社のブライダルプロデュース会社のパンフレット等々、これだけ見ればアサミヤ硝子と関係ないと思われそうなものばかり。
新企画として智恵がなにを考えたのかと言うと、こんなこと。
毎年冬になると、"さっぽろホワイトイルミネーション"というイベントが大通公園で開催されるのだが、それに便乗して、うちの会社の蓄光ガラスやLED発光ガラスのプロモーションをしようという企画だ。
輝くガラスの板で光と雪の幻想的な空間を作り、クリスマスにどこかのカップルに結婚式を挙げてもらえば、結構な話題になるのではないかと。