肉食系御曹司の餌食になりました
井上さんの本音はモロに顔に表れて、私が断ったことにホッとしている様子だった。
その分かりやすいところは嫌いじゃない。
なにを考えているのか分からない支社長と話すより気が楽で、案外ふたりで飲みに行っても楽しくお酒が飲めたりして……などと考えてしまった。
紳士的な見た目で、時々ニヤリと意地悪く笑う支社長。
からかい甲斐があるとは思えない私を、なんでからかってくるのだろう……。
会社での支社長と、店に来る支社長を思い出し、手の甲にキスされたこともついでに思い出して心が乱されそうになる。
首を横に振り、「そんなことより」と話を仕事に戻した。
時刻は十九時になるところ。
今日はアルフォルトの日ではないけれど、雑談で残業するのはもったいないし。
「来週、大雑把にでも見積もり立てて、コラボしたいブライダル会社も三社くらいに絞ろうか。後は文章にして、再来週にでも部長に見てもらうという感じでいい? 今日はもう、この辺にしとこうよ」
この企画の発案者は智恵なので、リーダーも当然彼女。
リーダーからの『そうしよう』という締めの台詞を待っていたのに、なぜか智恵は頬杖ついて、じっと私を見つめるだけ。
なにか言いたそうな彼女に「なに?」と尋ねると、「うーん……」となにかを迷ってから、思いがけないことを言われた。