肉食系御曹司の餌食になりました
井上さんが「お疲れ様です……」と挨拶した後は、誰も口を開かず気まずい空気が漂う。
支社長は『私の噂話ですか?』と問い詰めてくるのでもなく、出て行くのでもなく、テーブルの上の散らかった資料を一瞥し、それから話し合いをメモしたA4紙を手に取ると、なぜか私の隣の椅子に腰を下ろした。
「これはどういう企画ですか?
亜弓さん、説明をお願いします」
企画に興味を示してもらえた……。
それは嬉しいことであっても、まだ支社長に聞いてもらえるような段階ではないし、説明なら智恵からの方が……。
向かいに座る智恵を見たら、『お願い!』という視線を返される。
『なんで私が』という気持ちがするけれど、名指しされたことでもあるし、仕方なく説明を始める。
「畜光ガラスとLED発光ガラスの、知名度上昇と販促を狙ってのプロモーション企画です。クリスマスにーー」
企画ともいえない素案の段階なのに、支社長相手にプレゼンしている気分で緊張する。
緊張しながらも、智恵のために力を貸してあげたいという気持ちが、いつもより私を積極的にさせ、らしくない熱弁を振るってしまった。
「と、今のところ、ここまでなのですが……どうでしょうか?」