肉食系御曹司の餌食になりました


翌日、「お先に」と帰って行く同僚たちを、残業中の私は自分のデスクから見送っていた。

まだ当分、帰れそうにない。

通常業務に加え、明日までに支社長に提出するように言われた企画書作りに追われているから。


ノートパソコンに文章を打ち込んでは消してを繰り返し、頭を悩ませていると、智恵がプリントアウトした資料を手に私のところに来た。


「はい、ブライダル会社五社の業績と特徴なんかを、比較しやすいように表にしてみたよ」

「ありがとう、助かる。残業してまで手伝ってくれるのは、智恵だけだよ」


昨日のミーティング室にいた井上さんは、手伝う相手が智恵ではなく私に代わると、『悪い、今日は予定が入ってて』と、逃げるように帰ってしまった。

下心で動く男は頼りにならない。

やはり持つべきものは女友達だと思ったら……智恵が腕時計に視線を落とし、困った顔を見せた。


「もしかして、予定あった? 彼氏?」

「うん、実は、一緒にご飯食べる約束してて……。でも大丈夫。遅れるってメールしたから」


居酒屋デートの予定だったと言う智恵に、何時に待ち合わせていたのかを尋ねると、十九時だと言う。

一時間も過ぎてるじゃない。

待ちくたびれた彼氏の機嫌が悪くなり、喧嘩別れしましたと言われても責任取れないよ。


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