肉食系御曹司の餌食になりました
受け取って「ありがとうございます」と珈琲を口にしたけど、心の中は文句でいっぱい。
いつも計画性を持って仕事を進める私が、なんで仕事に追われて残業しなければならないのよ、という思いでいた。
その気持ちはどうやら顔に出ていたようで、「こんな時間まで残業させているのは、私のせいですね。申し訳ありません」と、彼は一応謝ってくれた。
その後は「どこまで進んでいますか?」と聞かれ、パソコン画面や資料を見せながら、進捗状況や考え中の問題点、これからの作業についてを説明する。
立ったまま、珈琲を飲みつつ聞いていた支社長は、「なるほど、それなら後一時間もあれば企画書は完成しますね」と、サラリと言った。
この人……私の説明を、理解していないのだろうか?
課題が山積で考えながらの作業だというのに、一時間で終わるはずがないでしょう。
この札幌支社に彼がやってきてから、業績は好調だと聞いている。
『若いのに大したもんだ』という古株社員達の評価も聞こえてくるし、経営者一族という肩書きの上に胡座をかいているわけじゃなく、実力のある人なのだろうと思っていた。
しかし、今の『一時間もあれば』という発言で、私の中の彼への評価がガタ落ちし、呆れの視線を向けてしまう。
すると彼は飲みかけの珈琲を私の手に持たせると、ニヤリと笑って「席を代わって下さい」と言った。
「そのような目で見られると、逆に燃えますね。
亜弓さん、時間を計っていて下さい。私が一時間で終わらせたら、この後、残業するはずだったあなたの時間をいただきます」