肉食系御曹司の餌食になりました
彼を素敵だと思わない女性はいないだろう。
こんな私でも、初めて会った一年前も、今も、素敵な男性だという認識は持っている。
しかし彼は経営者一族の御曹司であり、交際相手としての可能性がゼロだから、冷静に客観的に彼の魅力を感じるだけだった。今までは。
嫌だな……この感じ。
さっきの『あなたの時間をいただきます』という台詞に、なんらかの意味を持たせようと考えてしまう自分がいる。
いつもの冗談にすぎないと分かっているつもりなのに、この心の揺れ方は危険だ。
会話のない数十分の間、支社長は企画書と戦い、私は次第に振り幅の大きくなる心と戦っていた。
不毛な恋心など、抱きたくない。
ここで思い留まらないと、後々泣くのは自分なのに……。
「できました」と言われて、ハッと我に返った。
さすがに疲れた様子の彼は、戦闘モードを解いた柔和な表情で大きな息を吐き出す。
「時間は?」
「あ……二十一時半です」
支社長と席を代わったのは、二十時四十分だったから、わずか五十分で終わらせてしまったということになる。