肉食系御曹司の餌食になりました
念のため、企画書を確認させてもらうと、素晴らしいとしか言いようのない出来栄えだった。
最初の三ページは私が作ったもので、途中から急に質が上がるのが恥ずかしい。
この仕事を六年やってきて、それなりに仕事ができる人間だと思っていたのに、私はまだまだ半人前のようだ。
驚くほどの実力を見せつけられ、言葉を失っていたら、クスリと笑う声が隣に聞こえる。
「一時間かかりませんでしたね。それではこの勝負、私の勝ちということでよろしいですか?」
「はい」と返事をしてみたが、勝負という言葉に引っかかっていた。
私の時間をもらうという話は、いつもの冗談で、口先だけのはず。
どちらが実務能力が高いかという勝負なら、完敗を認めるけれど。
僅かに首を傾げると、立ち上がった彼がお手をどうぞというかのように、紳士的に私に向けて手を差し出す。
「なにか疑問がありそうな顔ですね。
亜弓さんの時間をいただく話は、初めに言っておいたはずですが」
「本気、ですか?」
「もちろん。まずは食事に行きましょう。
空腹で倒れそうです」
差し出された手に自分の手を重ねながら、昨日、私とのふたり飲みを提案された井上さんの反応を思い出していた。
仕方なく私を誘いながらも顔を引きつらせ、断ってくれという心の声がだだ漏れだった。
それが普通の反応だと思う。
着飾って客前で歌う華やかなAnneならまだ分かるけど、地味で冴えない私と食事に行きたいなんて、どうして……。