肉食系御曹司の餌食になりました
焼肉も、たまにはいいよね。
牛タンは塩とレモンで、カルビはタレで。
焼肉ならカクテルじゃなくビールをゴクゴクと飲みたい気分になる。
案内されたのは四人がけの椅子席で、ちょうど店の真ん中辺り。
「亜弓さんはなにが食べたいですか?」と聞かれ、さっき頭に浮かんだ牛タンとカルビ、それと生ビールをお願いした。
「他には?」
「それだけで十分です」
「少食ですね。私はたくさん食べたい人間なので、亜弓さんもお付き合い下さい。他のものは適当に頼みますよ」
牛タンと特上カルビが四人前、他は二人前ずつのハラミ、ロース、ミスジ、ホルモン、ハツ、レバー……と、どれだけ食べるのよと言いたくなる量の注文に、私は目を丸くする。
ジャケットを脱いでネクタイを緩め、腕まくりして、企画書を作っていたときと同じ戦闘モードに入っているし、今まで知らなかった彼の一面を見ている気分がした。
なんだろう、この気持ち……緊張が解けて楽になっていく。
うちの支社のトップで御曹司ということに、世界の違う人のような気がしていたけど、会社から一歩外に出てしまえば、彼も三十二歳の普通の男性なのだという新しい認識が追加された気分だった。