肉食系御曹司の餌食になりました
支社長が壺の中から、タレに漬かった二十センチほどの長い肉の塊をトングで引っ張り出し、焼き網に乗せた。
油が滴り落ち、炭火がパチパチと跳ね、美味しそうな香りが白い煙と共に立ち上る。
「そろそろ、食べ頃でしょうか」
彼が肉の塊を、慣れた手つきで大きめのひと口サイズにハサミでカットしていく。
外側は軽く焦げ目がついて、中は綺麗なピンク色のミディアムレア。
滴る肉汁がもったいないから、早く口に入れないと……。
「いただきます」と箸を伸ばしてカルビを持ち上げたら、向かいから支社長の左手が伸びてきて、私の手首を捕まえる。
なんで?という思いで視線を合わせると、彼は意地悪く口の端を釣り上げ、掴んだ私の腕を引き寄せると、私の箸からパクリと肉を食べてしまった。
「ああ、私のカルビが!」
彼は楽しそうな顔をして、私の手首を捕まえたまま、自分だけ次々とカルビを口に入れていく。
「支社長、私も食べたいです!」
「こんな夜中に焼肉を食べたら太ると、先程ぼやいていたじゃないですか」
「それはそうですけど、壺漬けカルビは滅多に食べられないから、せめてひと口……」