肉食系御曹司の餌食になりました

見る見る内に肉は彼の胃袋に収められ、網の上にはとうとう最後のひと切れになる。

それを彼の箸が摘み上げたのを見て思わず「あっ!」と叫ぶと、彼は笑いながら私の口に入れてくれた。

掴まれていた手も離され、口の中の極上の旨みを堪能する。

美味しいけど、たったひと口で終わってしまった……。

ちょうど店員がラストオーダーを聞きにやってきて、彼は壺漬けカルビの追加と生ビール二杯を注文した。


「さすがに私は満腹なので、追加分は亜弓さんおひとりでどうぞ」

「支社長は……時々、意地悪ですよね」

「そう思わせているのなら、申し訳ありません。
私はただ、あなたともっと打ち解けたいだけなんですが」


大人の笑い方をする彼から、その真意は読み取れない。

私なんかと打ち解けて、なにが楽しいというのか。

他の女性社員はきっと、彼の前では声が半音上がり、可愛らしい笑顔で対応してくれることだろう。

それがない私の態度が不満で、攻略してやろうと考えているとか?

もしくは支社長の相手として可能性がなさそうな私となら、社内で噂になることなく、遊べそうだと踏んでいるとか。

数年後に東京に戻るとき、私なら後腐れなく関係を断ち切れそうだという線もある。

どれにしても、私には嬉しくない思惑ではあるけれど。

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