肉食系御曹司の餌食になりました
焼肉屋を出たのは、二十三時頃のことだった。
会計は支社長がサッと済ませてくれて金額が見えなかったが、多分、二万近くいっている気がする。
壺漬けカルビはひとつ三千円もするし、なんだか急に申し訳ない気持ちが……。
ご馳走してくれた支社長にお礼を述べて、「それでは私はこれで。お疲れ様でした」と背を向けようとしたら引き止められた。
「もう一軒、どうでしょうか?
夜景の見えるバーにでも」
夜景の見えるバーか……。
デザート代わりに甘めのカクテルが飲みたい気もするけど、中ジョッキのビールを三杯も飲んだので、結構酔いが回っている自覚がある。
それにお腹がいっぱいで、これ以上、飲み物さえ入る隙間はない。
そんな説明をする前に、彼がなにかを思いついたような顔をして言葉を付け足した。
「そうだ、夜景よりもっと素敵な音楽が聴けるバーがあるんです。そこに行きましょう。
アルフォルトという店をご存知ですか?」
その瞬間、ギクリとして酔いがいっぺんに吹っ飛んだ。
目を逸らし「知りません」と答えながら、支社長と一緒にアルフォルトに行ったら、どうなるかを想像していた。