肉食系御曹司の餌食になりました
光の届かない暗がりでも、支社長の瞳に色気が増しているのが分かる。
驚きと戸惑いの中、彼の左腕が腰に回されて引き寄せられ、右手は顎にかかり、上を向かされた。
「警戒した方が、よかったようですね」
彼がこれからなにをしようとしているのか、この状況で分からないはずがない。
心臓が爆音で鳴り続ける中、精一杯の強気な視線を向けていた。
「支社長の趣味を疑います。
見ての通り、私は地味で冴えない女ですよ?」
「そうでしょうか? 少なくとも私の目には、非常に美味しそうに映るのですが。
我慢できないので、ひと口、味見させて下さい」
端正な顔が斜めに傾き近づいてきて、唇が触れた。
重なる唇の隙間から彼の舌先が侵入し、すぐに深いキスとなる。
これを味見とは言わないでしょう。
我が物顔で動き回る彼の舌先は、歯列をなぞり上顎を優しく撫でたかと思ったら、今度は激しく舌に絡みついて、快楽で私の思考を麻痺させようと企んでいるかのようだ。
早く離れないとと思っていたはずなのに、逃げる気持ちがどんどん薄れていくのはなぜだろう?
危険が孕んでいることさえスパイスとなり、より一層キスの甘さを引き立てる。
こんなに美味しくて病みつきになりそうなキスは、生まれて初めての経験。
マズイな……。
惹かれても未来などないと分かっているし、Anneの正体を知られる訳にもいかないのに、心のどこかで遊ばれてもいいから流されてみたいと思う、危ない私がいる……。