肉食系御曹司の餌食になりました
事実上、もう許可が下りているようなものなので、今日の訪問は書類の提出だけ。
後は判を押してもらえば、お役所関係はクリアとなる。
だから一緒に出向く必要はなく、更に言うと、私が彼と行動を共にするのが嫌だった。
ひと月前のキスからは警戒を強め、見えない壁を張り巡らせて対峙する私。
一方、支社長は以前と変わりなく、思わせ振りな言動も続いていた。ほら、今も……。
用件は済んだので書類を手に引き揚げようとドアノブに手をかけた。
すると後ろからスーツの左腕が伸びてきて、ドアに突き立てるから、これではドアを開けられない。
彼の右手は私の肩に乗せられ、撫でるように下降してウエストに回された。
密着する背中に彼の体温を感じながら、「支社長、ここは会社で今は仕事中ですよ」と冷たく嗜める。
「それは、退社後ならお付き合いいただけるという意味ですか?」
クスリと笑う声が耳元で聞こえたと思ったら、彼の唇が耳朶に触れた。
ゾクリとして肩をビクつかせると同時に、頭に蘇るのは濃厚なキスの記憶。
あれは人生で一番美味しく、心が乱されるキスだった。
たった一度のことなのに、その快楽の記憶は麻薬のように脳を犯して留まり続け、気を張っていないともう一度試してみたいという欲望が湧いてしまう。