肉食系御曹司の餌食になりました
そんな説明をして「あの人は私をからかって楽しんでるだけ」と断言しても、智恵は「うーん、でもさー」と納得いかない様子。
久しくうちの部署になかった、オフィスラブの話題に飢えているせいなのか?
反論の言葉を探される前に、私は誰もが納得できるような説明を付け足した。
「支社長と腕を組んでいる私を想像してみてよ。どう? 釣り合ってる?」
「釣り合って……ない」
「でしょ。支社長は元々東京の人だし、向こうでお似合いの彼女が待っているんじゃない?」
自分で言って納得する。
私にとっては困る人でも、女性人気はかなり高い彼。
彼女のひとりやふたり、東京にいるはずだと。
「はい、支社長の話はもうお終い。
仕事に戻らないと。今日は残業できないんだよ」
「お店に出る日なんだね。
あ、そうだ! "Anne(アン)"なら見た目に支社長と釣り合うよ」
「あっちの私は、私であって私じゃない。
地味なこっちがスタンダードだから無理」
「じゃあ、先に戻ってる」と、まだ話したそうな智恵を置いて、トイレを出た。
事業部に戻る途中で、隣の部署の先輩男性社員とすれ違い挨拶するも、興味なさそうな顔で「どうも」と言われただけ。
そんな反応が普通なのに、支社長が私を狙ってるって?
いやいや、シンデレラストーリーはこんな場所に転がっていたりしないから。