肉食系御曹司の餌食になりました

智恵が納得してくれそうな返答をと考えて、Anneのことだけ理由にする。


「店に支社長が来るって言ったでしょ」

「毎回来るの?」

「そう。私がステージの日は必ず現れる。先週で七回目だよ。バレたら困るから、会社の男性だけは恋愛対象にしない」


そう言ったとき、ちょうど注文したパスタが運ばれて来て、会話の流れを変えることができた。


「明日の土曜日、マスターの誕生日会なんだ」

「去年もやってたやつ?
いいな〜私も参加したい」

「智恵は常連客じゃなから無理かも。
下っ端の私には権限ないし、ごめんね」


アルフォルトの年行事となっている誕生日会は、日頃の感謝を込めて私達ジャズアーティストメンバーがマスターのリクエスト曲を代わる代わる演奏する。

貸切にした店内に入れるのは、メンバーと従業員と、何年も店に通っている常連客のみ。

食べて飲んでジャズ愛を語り、普段はやらない複数ボーカルとか、ドラムテクニックの競い合いとか、内輪だけでとことんはしゃいで盛り上がる。

最近ご無沙汰にしているメンバーも集まるだろうし、私も今からワクワクして、かなり楽しみだ。

そのためには明日、休日出勤とならないよう、午後からの仕事をきっちり片付けなければいけないよね……。


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