肉食系御曹司の餌食になりました
翌日の昼過ぎ。
光沢のあるベージュのワンピースとパンプス、存在感のあるアメジストのネックレスを身につけた私は、Anneの姿で地下鉄に乗車していた。
すすきの駅で下車し、改札を抜けて地上に出ると、眩しい日射しに目を細める。
夜と違い、人通りはさほど多くない。
ショッピングを楽しみたい人達は、すすきのより隣の大通り駅や札幌駅を利用する人がほとんどだから。
市電の走る道を西へ進み、横道に折れて少し歩くと、見慣れた古いビル。
その地下に繋がる階段前だけ、数人の男性がたむろして賑やかだった。
「シゲさん」と呼びかけ近づくと、白髪交じりの顎髭を生やしたダンディなおじさんが、私を見てニッコリと笑ってくれる。
彼はドラム奏者で、支社長が初めてアルフォルトに現れた日に、私と一緒にステージに立っていた人だ。
「アンちゃん、随分と早いじゃないか。
十四時からだよ? まだ一時間もあるのに」
「なにかお手伝いできればと思って」
「んー、じゃあ店の中に入って、料理並べたりしてもらうかな」
マスターの誕生日会の幹事はシゲさん。
会費としての一万円を忘れない内に支払い、階段を下りてアルフォルトのドアを開けると、アルバイトの男の子や、メンバー数人と常連の女性客も早々と来ていて、どこかの店で買ってきた料理を並べたり、パーティふうの飾り付けをしたりと働いていた。