肉食系御曹司の餌食になりました
「アンちゃ〜ん、久しぶりー!」
両腕を広げて抱きつき、大げさに喜んでくれるのは、ルミコさん。
私と同じジャズシンガーで、アルフォルト歴が一番長いメンバーだ。
歳を重ねてもルミコさんは決しておばさんにはならず、色気と艶のある魅力的な大人の女性で、その味わいのあるハスキーボイスを含めて憧れの気持ちが湧いてくる。
「ルミコさん、後で私と一緒に歌って下さい」
「いいわよ〜。なに歌おうか?」
始まる前から楽しくて、準備をしながらはしゃいでいたら、「おはよーございます」と聞き慣れた声が後ろにした。
振り向くと、黒いTシャツとデニムパンツという、ラフな格好をしたカイトが立っていた。
カイトも当然来るだろうと思っていたので、別になんとも思わないが、その顔を見て私のテンションが少しだけ下降する。
睨まないでよ……。
カイトが寄りを戻そうと言ってきて、それを断った後、もう一度共演する機会があったのだが、機嫌の悪さを隠さないから嫌なステージになってしまった。
別れて一年も経つし、私の後にも何人かと付き合ったみたいなのに、なぜ今更ギスギスしないといけないのか。
「なにやればいいすか?」と、ルミコさんの指示を仰ぐ彼。
その言い方もやる気がなさそうで、感じ悪い……。