肉食系御曹司の餌食になりました
それぞれの楽器を手にステージに立ち、代わる代わるマスターのリクエスト曲を演奏するメンバー達。
But Not For Me、All of Me、Blue in Green……。男性ボーカルの渋くて甘い声にうっとりと聴き入る。
次はルミコさん十八番の古い名曲で、アップテンポのリズムに私も体を揺らして楽しみ、ワインを飲みつつ、やっぱりかっこいいなと思って聴き惚れていたら、途中で「アンちゃん、おいで!」とステージに呼ばれた。
準備中に、一緒に歌いたいとお願いしたから呼んでくれたみたい。
ルミコさんの隣に立ち一本のスタンドマイクに向けて、交互に歌う。
時々ルミコさんが上手にハモってくれたりして、興奮を抑えられない。
私達の歌を支えているのは、ピアノとドラムとカイトのアルトサックス。
間奏部分でカイトが主役になると、ルミコさんが肩を抱くようにして彼を前に連れ出し、私の横に並ばせた。
カイトと肩が触れ合い顔を見合わせると、準備中に私を睨んでいたその目が、今は笑っていた。
どうやら機嫌は直ったみたい。
カイトも私と同じくジャズを愛し、この店もマスターも大切で、こんな楽しい時間まで拗ねて台なしにするほど子供じゃないということか。